以下のような悩みはございませんか?
①個人企業経営、農業経営における後継者を確保したい
②生存配偶者や障害を持つ子の生活保障のために、今からできる方法はないか?
③夫婦に子供がいないので、妻に財産を相続させたいが、その財産の中の
「先祖代々の土地」が妻の死亡後に、妻の兄弟に相続させたくない
④再婚したいが、子供が「親の再婚相手」に財産を持っていかれることを理由に反対している
↓
上記①から④を法的な観点から説明すると
①→個人企業経営、農業経営における後継者を確保するため
共同均分相続を修正したい
②→生存配偶者や障害を持つ子の生活保障の必要等から、
これらの者が死亡するまで共同均分相続を先送りしたい
③→被相続人夫婦に子供がいない場合において、
まず配偶者を第一次受益者とし、
配偶者が死亡後は被相続人の兄弟を第二次受益者兼残余財産の帰属者にしたい
④→被相続人の先妻との間には子供がいるが、
後妻との間には子供がいない場合にまず第一受益者を後妻とし、
後妻死亡後の第二次受益者兼残余財産の帰属者を先妻との間の子供にしたい
いかがでしょうか?
上記の悩みを解決する一つの方法が、
「受益者連続型信託」
です。 信託法が改正されて、可能となりました。
当事務所では、「受益者連続型」の遺言書の作成をいたします。ご相談ください。
補足:概要説明
1.受益者連続型信託とは
「受益者の死亡により、
当該受益者の有する受益権が消滅し、
他の者が新たな受益権を取得する定め
(受益者の死亡により順次他の者が受益権を
取得する定めを含む。)のある信託」
(信託法91条)のことをいいます。
具体的には、
委託者Aと受託者Bとの信託契約において、
当初の受益者をCとしますが、
同時に、Bが死亡した時の第二次受益者をC、
Cが死亡した時の第三次受益者をDとする旨を
定める信託のことをいいます。
2.受益者連続型信託を行う方法は、
「契約による信託」と「遺言による信託」の2つがあります。
3.以前から有効性に疑義があった「後継ぎ遺贈」と
同様の効果があります。
「受益者連続型信託」と「後継ぎ遺贈」について、
以下、まとめますと、
(1)後継ぎ遺贈とは
遺言によって、遺言者Aが第一受遺者Bに財産を
遺贈するが、Bの死亡時にはCを第二受遺者として
これに遺贈するという内容の遺贈のこと
※Bの権利はBの死亡時に終了する不確定期限付のもの
(2)相違点
① 信託の場合には、受益者が取得する財産は
受益権であって信託財産ではない
→信託財産が不動産所有権の場合に、
受益者が取得する権利は受益権であって
所有権ではない。
② 後継ぎ遺贈の場合には、
受遺者が取得するのは所有権そのもの
(3)後継ぎ遺贈の効力自体に争いあり。
①本来、所有権は完全・包括的・恒久的な権利であるから、
上記⑴のBの権利(不確定期限)のように
期限付所有権を創出することは
許容されないのではないか
②本来、所有権は使用・収益、処分が自由できる権利のはず。
にもかかわらず、後継ぎ遺贈では、上記のBの権利を
制限することになる。
そこまで、遺言者の意思を強めていいのか
③そもそも登記ができない(某法務局不動産登記部門の回答)
↓
このようなことから、後継ぎ遺贈とほぼ同様の効果を
生み出す受益者連続型信託が認められるように
なったのです。
4.受益者連続型信託のメリット・デメリット
メリットとしては、
(1)形式上、受益を受ける人に所有権は移転しないが、
実質的に、後継ぎ遺贈と同様の効果が生じる。
↑ この点がまさに最大のメリットです!!
(2)後継ぎ遺贈では不明確であった登記、税務の点も、
明確になった。
↑ この点も大きいです。
後継ぎの場合には、できるか否かは
正直誰も明確にできないグレーゾーンだった
(できるような、、、できないような、、、)
しかし、
デメリットとしては、以下の点が挙げられます。
(1)相続と同様の恩恵と言われても、
不動産登記簿謄本では権利者欄に
名前は出ない(出るのは受託者)ため、
一見、わかりにくい。
あくまで、信託なので、
当たり前といえば当たり前なのですが、
この点を法律に詳しくない方が理解するのは
難しい
ところもある点
「登記原因が、信託のため、
不動産登記簿謄本では、権利者欄には、
受託者(上記メリットの例でいえば夫の兄弟)名が
記載されている。
受益者(上記メリットの例でいえば、妻)の名前が
でてくるのは、法務局で、登記簿謄本とは別に、
「信託原簿」というものも取り寄せて、
初めてわかるため、疑念を抱かせる可能性あり。
(2)信託後、当該信託財産に処分の必要が出ても、
処分しにくい。
このようなデメリット(わかりにくさ)も手伝ってか、
ある公証役場では、受益者連続型信託の契約や遺言は、
まだ扱っていないとのこと。
受益者連続型信託の場合は、
その手続上の問題も比較的クリアされています
(メリットの(2))。
従いまして、案件によっては、
有効な方法になると思われます。
受益者連続型信託の有用性を、
わかりやすく説明して、普及していくのも、
法務・手続の仕事に携わる者としての使命と考えています。
5.受益者連続型信託の存続期間の制限について
受益者連続型信託には、いままで述べてきたように、
以下のようなメリットがあります。
そんな受益者連続型信託ですが、
存続期間を無制限に認めると、ある世代の人が決めた
財産のあり方に、後の世代の人がいつまでも
拘束されることになり(長期間の処分、禁止財産の創出
に なりかねない)、国民経済上の利益に反する結果を
招きかねません。
そこで、
遺言者の意思と上記の国民経済上の利益との調和の観点から、
新信託法は、受益者連続型信託の存続期間を
以下のように規定しました。
「信託設定から30年経過後に現存している受益者が
この受益者連続の定めにより受益権を取得した場合において、
当該受益者が死亡するまで、又は当該受益権が消滅するまで」
6.受益者連続型信託が有益な手段となりうるとしても、
課税面でどのように処理されるかを確認する必要があります。 一つの法的処理を考える際には、法律面からのみならず、
税務の面からの検討も実際の実務ではかかせないからです。
詳しくは税理士の方に委ねることとして、
ここでは一般論を説明しておきます。
場面としては、信託時と相続時が考えられます。
以下、
会社法務Ato2Z 2009年8月 P16~21の記載を
まとめたものを具体例としてあげることにします。
① 信託した時点での課税関係
Q.父が委託者となり、同族会社A社が受託者となり
不動産を管理・運営します。
ここで、不動産名義は同族法人A社に変更されますが、
受益者は父であり、不動産の実質的な所有者は父のままです。 この場合の課税関係はどうなるのでしょうか。
A.不動産の所有者が父から同族会社A社に移るが、
同族法人は対価を支払うことなく不動産の
所有者になるので、受贈益を計上して課税される
という疑問が生じます。
しかし、信託においては、不動産の賃貸収入や
不動産を売却した場合の売却代金は、
実質的には受益者(父)に属することになり、
受託者(同族法人A社)は名前だけ所有者となりますが、
経済価値を有さない理由から、同族法人A社に対する
受贈益の課税は生じません。
また、このケースでは委託者=受益者(父)なので、
経済的な価値の異動はないので、父に対する課税も
生じないことになります(受益者を子に
していたりしていたら贈与税が課税される)。
② 毎年の確定申告
Q.信託された不動産は、賃貸しており
年間1000万円の所得があります。
この確定申告は誰がするのでしょうか。
A.実質的な所有者は受益者(父)なので、
確定申告は受益者が行う必要(消費税も)となります。
③ 相続発生時の課税関係
Q.父が亡くなり、受益者は父から長男に変更されました。
この場合に相続税はかかるのでしょうか。
A.信託受益権(信託された財産にかかる価値を
受け取る権利)が相続によって父から長男に
移転したので長男に対して相続税が
課税されることになります。
Q.では、信託受益権はどのように評価すればよいのでしょうか。
A.不動産の相続評価額が1億円と仮定すると、
信託受益権の価値は、実際の不動産の価値と
変わらないと言えるので、
信託受益権の評価額は不動産の評価額と
同じく1億円となると考えます。
信託の課税関係は、信託受益権を有する者が
信託された財産を有する信託受益権者になって
しまったとしても、「小規模宅地特例」や「買換特例」
の適用が可能となっています。
**********************************************
引用文献:公正証書モデル文例 (新日本法規)
P928の2の34~44
会社法務Ato2Z 2009年8月 P16~21