5.遺言執行者の権限強化について
(1)相続させる旨の遺言があった場合の遺言執行者の権限(1014条)
①相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)
相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言):「遺産の分割の方法の指定」として遺産の中の「特定の財産」を共同相続人の1人又は数人に承継させるという内容の遺言。
例)「妻に居住建物を相続させる」「妻にA銀行の預金500万円を相続させる」
✕「長男に遺産の2分の1を相続させる」(「相続割合の指定」)
✕「遺贈」(相続人以外の人に財産を与える行為)
②遺言執行者の対抗要件具備権限(1014条2項)
(例)「自宅は妻に相続させる」+遺言執行者の指定あり。
(従前)
「相続させる旨の遺言」によって、相続開始と同時に自宅は妻のものとなるから、遺言執行者の手続なしに、当該相続人(妻)が単独で所有権移転登記手続き可。
(改正)
『特定財産承継遺言』があったときは遺言執行者も単独で登記手続ができる。
(1014条2項)(従前とおり、妻も単独で登記可。)
趣旨:
法定相続分をこえる権利を取得した者は速やかに対抗要件を備える必要が高まった。
+
相続時に相続登記がなされない不動産が多数存在(空き家・空地の社会問題化)
↓
対抗要件を備えるために必要な行為をすることを遺言執行者の権限とした。
遺言執行者としての職務を迅速に行える。妻が登記をしないうちに、子供らが自宅を相続登記して持ち分を売却するおそれがある。
(2)法定相続分をこえる権利取得の対抗要件(899条の2第1項)
改正相続法:
第899条の2第1項「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」
目的:取引の安全→遺言の有無や内容は第三者は知り得ない。
注意点:対抗要件が必要なのは不動産に限らず動産、債権等すべての権利が対象。
(3)遺言執行者がいる場合の相続人の行為の効力(1013条2項)
(事例)被相続人の遺言には「不動産はXに遺贈する。Yを遺言執行者にしている。」と記載。相続人A(相続人は1人)が、相続開始後に当該不動産を自己名義に変更し第三者Bに売却した(移転登記済)。
↓
① 改正前 絶対無効
② 改正後 相対無効 :
前項の規定に違反してした行為は、無効とする。
ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
趣旨:取引の安全を重視。
※業務上の注意:
遺言執行者に就任後、速やかに受遺者に連絡を取り登記手続きをとること。
相続人に相続登記、売買に基づく所有権移転登記をされると、取り戻せても手間がかかる。取り戻せないと、賠償請求を受ける可能性もある。